2024年3月19日火曜日

3点透視で描く建物の絵

 Three - point Perspective

マンションの広告でよくこんな写真があるが気になる。建物の縦ラインが完全に垂直になっているので、上広がりの頭でっかちに見える。写真のあおり補正のしすぎで、視覚的にとても不自然だ。

もうひとつは、最上層の屋根の角の角度が 90 度以下の鋭角になっている点で、 こういう見え方は現実にはありえない。超広角レンズか何かで撮ったときに現れる現象だ。


この写真の不自然さは、透視図法の原理から説明できる。下図(図は「Perspective」より)は、立方体を、左は2点透視図法で、右は3点透視図法で、描いた時の比較をしたもの。


左図で、立方体をだんだん下から上を見上げる角度になっていくが、一番上までいっても立方体の縦ラインは垂直のまま変わらない。そして立方体の手前の角がだんだんシャープになっていき、一番上では 90 度になっている。 90 度とはつまり、建物の壁に目をぴったりつけて上を見た時と同じで実際にはありえない。上の写真が不自然なのは、撮った写真を、この状態になるまで補正しているからだ。

以上の不自然さをなくすために、普通は右図の3点透視図法が使われる。上方向にも縦ラインが収斂し、上方に第3の消失点ができる。そして立方体の縦ラインは上に行くほど長さが縮んでいき、一番上では立方体は底面しか見えなくなる。これが人間の視覚にあった描き方だ。


ヒュー・フェリスは建築家兼画家で、 20 世紀初めにニューヨークの摩天楼がニョキニョキ建ち始めたころ、未来都市の高層建築のイメージを描いた。それはアール・デコの時代だったので、その当時流行のデザインだが、幻想的で一種異様な感じの絵を描いている。この絵は、建物の縦ラインがわずかに上方へすぼまっていて、3点透視になっている。

絵画では、3点透視はあまり多くない。風景画で高層ビルがモチーフになることが少ないし、あっても遠くから見た点景として描かれる場合が多く、見上げるような近くから見た高層ビルはあまり描かれない。

モネは「ルーアン大聖堂」という連作を描いたが建物の縦ラインは完全に垂直で、2点透視になっている。建物が5階建くらいで、しかもモネは向かい側の建物の2階から描いたというから、さほど上を見上げるよう角度ではない。だから3点透視にしなかったのだろう。

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