2025年4月29日火曜日

情報社会の「真実と秩序」とは

  NEXUS : A Brief History of Information Network from Stone Age to AI

前回、「NEXUS 情報の人類史」について書いたが、今回はその具体的内容についてごく一部だけだが紹介してみたい。


「情報」の役割について、普通は下図のように捉えられている。人間は「情報」を得ることで「真実」を知り、それによって「知恵」と「力」を得て、何かを成し遂げる。しかし著者は、これは素朴すぎる見方だとしている。


実際はもっと複雑だとして、下の図示をしている。図の説明として、石器時代の人間がマンモスを狩るときの例をあげている。マンモスがいるという「情報」から「真実」を知る。そこで「知恵」をめぐらせてなんとかマンモスを仕留めたいと思う。しかし巨大な動物を一人で狩れるだけの力はない。そこで仲間を集めて協力しあうことで、それが大きな「力」になって成功する。この時、全員が同じ計画に同意し、命の危険に直面しても各自が役割を勇敢に果たす必要がある。この図の「秩序」とは、そのようなメンバーの団結力を生み出すもののことを意味している。そしてこの「秩序」は人類史上、法律や国家や宗教という形で発展してきた。


しかしこの「真実」と「秩序」は必ずしも一致しなかったり、お互いに矛盾する関係になることに注意すべきだとして、以下のような例をあげている。

「神」が人間を創造した絶対的存在であるということを全員が固く信じることによって、キリスト教社会が一つにまとまり「秩序」が維持されてきた。しかし、ダーウィンの「進化論」が、人間はサルから進化したものだという科学的な「真実」を明らかにすると、それは「秩序」を破壊することになるので、社会から激しい弾圧を受けている。

科学者が原爆を発明したとき、それが大量殺戮兵器だという「真実」を知りながら、政治家は、非人道的独裁国家の侵略から人々を救い、世界の「秩序」を守るためにという理由で日本に原爆を投下した。

自分たちは神に選ばれた国であるという聖書の「物語」を根拠にして、イスラエルの首相がパレスチナを爆撃し続ける。あるいはプーチン大統領が、自国の過去の栄光を取り戻すのだいう「物語」をもとに、隣国を侵略し続ける。さらにトランプ大統領は、他国によって自分たちの利益が奪われてきたという「物語」を作り、関税という武器で他国を攻撃する。しかしこれらの「物語」は客観的な「真実」にもとづいたものではない。だが「真実」を語れば、次の選挙で負けて、自分が握っている政権という「秩序」を失う。だから「物語」を言い続ける。


以上は本の第2章までの一部要約だが、最後は本題に入っていく。情報ネットワーク社会は、上記のようなこれまでの矛盾を乗り越えて、「真実」の発見をし、しかも「秩序」を生み出すという二つのことを同時にすることができるのだろうか?  という問題だ。SNS や AI の発展のおかげで、フェイク情報によって簡単に社会秩序が乱されるような現状をみると、難しい課題に思えるが・・・

2025年4月27日日曜日

「NEXUS 情報の人類史」

 NEXUS : A Brief History of Information Network from Stone Age to AI

世界的超ベストセラー「サピエンス全史」のユヴァル・ノア・ハラリの新著「NEXUS 情報の人類史」が出た。待望の一冊だ。

石器時代からシリコン時代までの情報の歴史をたどりながら、情報とは何かを解明して、AI 時代の今、人類の未来はこれからどうなるかを大きなスケールで描いている。

著者は AI や SNS がもたらす未来に警告を鳴らしている。情報によって発展を遂げた人類は、情報により没落する可能性がある。そうならないためには AI を人類の味方にしなければならない。本書はその羅針盤を示している。


2025年4月25日金曜日

「万博見てきただ」

 EXPO OSAKA 1970

TVer で「万博見てきただ」というのをやっていた。1970 年の大阪万博の時の映像のをそのまま再放映している。万博を見に行った田舎のおじいちゃんとおばあちゃんに密着取材したドキュメンタリーだ。

旅行会社の農協様ご一行向けの万博見学ツアーに参加した農家の老夫婦の一部始終を撮っている。どこに行っても2時間待ちの大行列だらけで入るのをあきらめるしかない。どこか入れるところはないかとうろうろしているだけで疲れはててしまう。結局2日間で見れたのは「人間洗濯機」と月面着陸のアメリカ館だけだった。

迷子よけの ツアーの帽子をかぶったおじいちゃんは、何もかも珍しく「おらーぶったまげただ」と言って、口をポカンと開けて目をまん丸くしている。

このように、題名の「万博見てきただ」どうり、田舎のお年寄りをこバカにしたような内容だ。しかし考えてみると、あの当時、世界の田舎者だった日本人全員がこのおじいちゃんと同じように万博に興奮していた。そしてそれから半世紀もたった今度の万博だが・・・


2025年4月23日水曜日

万博の「ミライ人間洗濯機」

 EXPO  OSAKA

ある TV 番組の大阪万博の紹介で、「ミライ人間洗濯機」なるものが出展されていると知った。写真は大阪市長が自ら体験使用するデモの様子だそうだ。失敗万博と批判されているなかで、なんとか盛り上げようと苦心している。


1970 年の大阪万博で「人間洗濯機」が大人気だったが、「夢よもう一度」だろう。しかし名前は「ミライ人間洗濯機」になったが少しも「未来感」がない。 55 年前と同じで、客寄せパンダ的な「キッチュ」だ。

万博の歴史は、未来の技術と、それによってもたらされる生活の未来を見せる場だった。そして展示物は実際に実現化され、社会の変化に影響をもたらしてきた。しかし近年の万博は遊園地化して、”おもしろ展示” ばかりになってしまった。「人間洗濯機」も同じで、製品化されなかったし、「未来もどき」を作った某電機メーカー自身も「未来」がなく、潰れてしまって今では影も形もない。


かつての万博が未来のビジョンを示す役割をしてきた例として、戦前の 1939 年のニューヨーク万博が有名だ。テーマが「進歩の世紀」で、20 年後の都市の姿を見せることだった。都心の高層ビルに都市経済機能を集中させ、人間の住居は郊外に分散させ、芝生の庭のあるゆとりのある住宅にする。そして都心と郊外の間を高速道路で結ぶ。夫が通勤している間の奥さんの買い物用に、一家で2台の車を所有する。このビジョンを見せるために巨大なジオラマが作られ大人気になる。

「未来」の街のあり方を示し、そこで生活する人間のライフスタイルの提案をしている。そしてこの未来像どうりに実際に高速道路の建設が始まり、郊外に住宅が作られていき、車や電気製品が普及していき、人々の生活が豊かになっていった。万博はただの夢ではなく、「実現する未来」を見せる場だった。


2025年4月21日月曜日

プロレス大好きのトランプ大統領

 Pro-Wrestling & Trump

トランプ大統領はプロレスが大好きだという。だからプロレス方式で、全世界を相手に殴る蹴るの乱暴を働いている。

プロレスの試合観戦が好きで、時にリングに上がって”参戦”し、負けた選手の髪の毛をバリカンで切ってしまうパーフォーマンスをやったりした。そしてこのとき勝った選手はトランプのひいきの選手で、この間の大統領選で、トランプの応援演説をしていた。

トランプ大統領が一期目の時、訪日して、安倍首相といっしょに国技館で相撲を観戦したが、トランプが同じ格闘技の相撲を見たいと言ったからだという。

そして2期目の今、教育長官(日本でいえば文部科学大臣)に任命したのが、リンダ・マクマホンというという女性で、全米プロレス協会のトップだ。トランプに多額の献金をして当選に貢献したからで、もちろん政治家ではない。彼女はさっそく、「学校の教育は左派的に偏っている」というトランプ大統領の意に沿って、教育省を廃止して、義務教育への助成をやめると発表した。とんでもなく乱暴な政策だが、これもプロレス的だ。


2025年4月19日土曜日

「デジタル敗戦」と大阪万博

 Osaka Expo 2025

大阪万博の最大の目玉だったドローンタクシーの商用運行を断念して、デモフライトだけになったようだ。一方で、中国ではこの6月から人間を乗せたドローンタクシーの商用運行を始めるという報道があった。技術の「未来を見せる」はずの万博だが、「未来」どころか、すでに普通になっている技術にすら追いついていないことを暴露してしまった。

モビリティ関係でもうひとつ。会場内移動用の EV バス開発が間に合わず、100 台を中国から輸入したという。記憶では確か3年くらい前に、大阪の某大手電機メーカーに EV バスの開発を委託したはずだが、失敗したのだろう。そもそも万博では、世界初の「レベル5」の完全自動運転 EV を実現するくらいのことをすべきなのに、普通の EV バスさえ作れなかった。

ドローンも EV もデジタル技術のかたまりだが、もっと基本的なデジタル技術でも失敗しているようだ。予約制の電子入場券で、「並ばない万博」にすると豪語していたが、始まってみると「わかりにくい」という声が噴出したり、さまざまな混乱が起きているという。今では当たり前のデジタル予約だが、システム設計に失敗したようだ。大阪市長は『超高齢化社会の中で、僕も含めて、日本人がデジタル技術に精通していなかった。』と認めているという。

コロナ禍以来、日本は「デジタル敗戦国」といわれている。大阪万博はそれを挽回する絶好のチャンスといわれていたが、見事に失敗した。上の3つの事例はそのことを示している。


2025年4月17日木曜日

Google への規制強化

 

先日 Google が、独占禁止法違反で、公正取引委員会から排除命令を受けたという報道があった。自社の検索ブラウザを強制的にスマホにインストールさせ、アクセス数を増やして広告の収益を上げるという同社のビジネスモデルが問題にされた。同じような問題が Google だけでなく、「GAFA」 と呼ばれる巨大 IT 企業(Google, Amazon, Facebook, Apple)に対する規制が、日本だけでなく、ヨーロッパやアメリカでも強化されつつある。

Google について、ある個人的な経験がある。数年前のことだが、ブログに「〇〇について」を投稿してから、しばらくして Google で「〇〇について」を検索すると、自分の投稿が上位3番目くらいに表示されている。悪い気はしないものの不思議だった。どういうアルゴリズムで優先順位を決めているのか公開されていないからだ。その状態が1年近く続いた後に突然終わってしまった。アルゴリズムの変更があったらしいことを感じたが、その理由もわからないままだ。

理由を推測するとこうだ。自分が使っているブログが「Blogger」で、それは Google が運営している ブログサービスだ。だから、Blogger へ誘導して自社へのアクセスを増やすための仕組みだったのではないか。そしてこのように、ユーザー数と投稿数と閲覧数を増やして、自社システムへの関わりを最大化させる仕組みは、Facebookでも行われていて、「いいね!」や「シェア」や「FB 友」がそれだ。

いま世界中で「GAFA」に対する規制が強化されつつあるのは、このような情報の独占と拡散の仕組みが、政治にも影響を及ぼし始めているからだ。これに対して例えば Facebook は「我々は中立的なただのプラットフォーマーであり、恣意的にコンテンツをコントロールしているわけではない」と主張している。

しかしこのような SNS の政治への影響について、ユバル・ノア・ハラリは新著「NEXUS 情報の人類史」で鋭い指摘をしている。例としてミャンマーで、少数民族を弾圧して大虐殺が行われたことに Facebook が大きな役割を果たした問題をあげている。少数民族に対する憎悪を煽るような投稿が大量に投稿されると、人権や民主主義を主張する投稿はかき消されてしまう。しかしこの時、 Facebook は投稿を内容で選別して憎しみを煽る投稿を優先するようなアルゴリズムにしていたわけではない。単に自社のシステムへの投稿や閲覧を増やすことを目標にしたアルゴリズムになっているだけだという。しかし人間は憎しみに満ちた攻撃的な言動にひかれやすいので、そういう投稿が拡散され、増殖していく。その結果が少数民族の大虐殺につながっていったという。

このように、人によってさまざまな意見がある問題に対して、何が「正しい」のかが SNS 上の”多数決” で決まってしまい、それを決めているのがアルゴリズムであることに注意すべきだと、ユバル・ノア・ハラリは言っている。特にこれからの時代は、 アルゴリズムを決めるのが人間ではなく、 AI 自身が決めていくようになると恐ろしいことになると警告している。