NEXUS : A Brief History of Information Network from Stone Age to AI
「情報の人類史」の中に、ローマ帝国の皇帝たちが行った「ダムナティオ・メモリアル」という面白い話がでてくる。それは競争相手や敵の記憶を抹殺することだ。皇帝カラカラは、皇帝の座を争っていた弟のゲタを殺害した後、彼の記憶を跡形もなく消し去ろうとした。ゲタの名前が記された碑文などは削り取られ、肖像が刻まれた硬貨は鋳潰され、人々はゲタの名前を口にしただけで死刑に処せられた。
同書は、近代以降の全体主義国家も、ローマ皇帝と同じように過去を改変してきたことを指摘している。スターリンは権力の座に上がった後、革命の立役者であったトロツキーをあらゆる歴史記録から拭い去るために最大限の努力をした。書物や論文や写真などからトロツキーが消し去られ、そんな人間など存在しなかったかのようにみせかけた。
同書を読んでいて、10 年くらい前の自分の個人的な経験を思い出す。今や世界一の全体主義国のある国へ出張した時のことだ。泊まったホテルの部屋に、ネットに繋がったPC があったので試しに「天安門事件」を検索してみた。すると香港のサイトの一行だけの簡単な説明が出てきただけで、それ以外はゼロだった。この国には、軍にネット情報を削除する部隊があって、数千人が 24 時間体勢で、政府に都合の悪い情報を削除している。「天安門事件」という事件は公式には無かったことになっているから、検索に出てこない。そのことを知っていて、確かめるために、あえて試してみたのだが。翌朝もう一度 PC を見ると、ネット接続は切られていた。つまり客がどんな情報にアクセスしたかが監視されていたのだ。今思うとヤバイことをしたものだが。
「情報の人類史」が危惧しているのは、現在の情報ネットワーク時代では、ローマ皇帝やスターリンが苦労してやったのと違って、ネットを使えば、全体主義国家が国民の監視や情報統制が簡単にできてしまうことだ。そして AI が発達していくとますます危険なことになっていくだろうと警告している。
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