2024年4月6日土曜日

オッペンハイマーは悪者か?

 「Oppenheimer」

映画「オッペンハイマー」で印象的なシーンがある。いよいよ最初の爆発実験の日、実験場へ向かうオッペンハイマーが、庭で洗濯物を干している妻に、「閃光が見えたらすぐに洗濯物をしまうように」と言う。つまり、爆発で遠くにまで「死の灰」が降るほど原爆の破壊力が強烈であることをオッペンハイマーは知っていたのだ。

その後、日本への投下が「成功」すると、研究所のメンバーたちから祝福される。しかしオッペンハイマーに喜びの表情はない。広島・長崎の惨状を知って、原爆の恐ろしさは自分の予測以上であることを知り、自責の念にかられる。しかし同時に「自分は科学的真理を追求しただけで、原爆を投下する決断をしたのは政府であって自分ではない」と主張する。そして、水爆開発に反対し、核兵器反対運動を推進する。

これはノーベルの話に通じる。自分が発明したダイナマイトが戦争で大量殺戮の道具に使われたことの負い目から平和賞を含むノーベル賞を創設した。そのような科学の進歩に常につきまとう「科学者と倫理」の問題を「オッペンハイマー」は問いかけている。

この問題について、科学者は軍事研究に手を染めるべきではないという立場から、日本学術会議は「科学者の行動規範」を定めている。「科学者は、特定の権威(政府や自衛隊などを指す)から独立して、自らの判断により真理を探求するという重大な責務を有する。〜云々」としているが、そんな単純なことで問題は済まない。オッペンハイマーは、科学の真理を追求することと、アメリカへの愛国心との両面から、原爆開発に突き進むしか選択肢はなかった。

科学の成果が戦争に利用されて人類の脅威になったのはこれまで2つあったといわれている。19 世紀のダイナマイトと、20 世紀の核兵器だ。そして、21 世紀の現代に生まれつつある第3の脅威は「AI」だとされている。すでに AI の軍事利用は世界じゅうで始まっている。しかし AI の研究者たちはそんなことに自分が関与しているとは思っていない。


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