2021年1月25日月曜日

歪んだ人間関係を映す凸面鏡 映画「召使」

 Convex mirror in「The Servant」

凸面鏡やガラス球に映った球面反射像は歪んでいるので、現実と違う ”異界” を映しだすような感覚がある。前々回書いたが、おとぎ話しの魔女の鏡や、占い師の水晶球などがそうだし、絵画でもガラス球に映った像で死後の世界を暗示したものがある。映画でも、メガネに映った球面反射像で殺人のシーンを撮った作品(ヒッチコックの「見知らぬ乗客」)があるが、凸面鏡がもっと大活躍する例がある。

「召使」(1 9 6 3 年)は、主人と召使、そしてそれぞれの恋人の4人が同居している豪邸で繰り広げられる倒錯した異常な愛の世界を描いた心理ドラマ。広間にある凸面鏡が、事あるごとに登場するが、そこに映った歪んだ像は、4人の歪んだ人間関係を映し出している。


登場人物たちの精神状態が狂い始め、主人と召使の、支配・被支配の関係が逆転してしまう。最後に、主人の心理状態が破滅して、自分が分からなくなってしまう場面で、ガラス球に反射した像を見つめる。そこには自分の歪んだ顔が映っている。


主人の恋人も召使によって精神的に破滅させられる。最後に彼女が家を出ていくシーンで、カメラは腕のブレスレットをクローズアップする。その金属球のブレスレットにぼんやりと映った室内は、そこで起きた悪夢の表象のようだ。


(この映画はあまり有名ではないが、脚本を書いた劇作家のハロルド・ピンターという人は、後の 2 0 0 5 年にノーベル文学賞を受賞している。)

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