Porch in Wyeth
ほとんど絶滅危惧種になってしまった縁側だが、時間の有り余ったお年寄りが、一人でぼんやりしているのに適した居場所だった。縁側の特徴は、隣人や通りがかりの知り合いも座れる、外の社会にも開かれた場所であることだ。
内でもあり、外でもある曖昧な空間である縁側は日本独特のものだと思いがちだが、そうでもない。縁側に近い機能を持った空間は外国にもある。アンドリュー・ワイエスの絵にそういう例を見ることができる。
ワイエスの「Christina Olson」は、足が不自由なクリスチーナが、ドアを開け放して、そこに座っている。風景と光と風を感じながら一日中この ”縁側” で過ごしているのだろう。
しなければならないことの少ない老境の人にとって、何もしないでいる時間を心地よく過ごせる居場所が必要だ。読書など、心に集中することがあれば室内でもいいが、そうでなければ独房にいるような気分になってしまう。景色を眺めて気を散らせる縁側のような場所がいい。
ワイエスの「Fast Lane」という絵で、車に轢かれたリスが死んでいる。つまり手前は道路で、Fast Laneとは高速車線のこと。
それはともかく、一般的なアメリカの家には必ずこのような「ポーチ」があって、そこが縁側の役割をしている。ポーチは玄関の前にあり、屋根がついている。屋根が無い場合は、テラスと呼ぶようだ。だいたいは玄関のまわりだけだが、この絵のように家をぐるっと取り巻くようなものもある。
この絵の題名「Rag Bag」は「ズタ袋」という意味。ポーチに置いてあるズタ袋を犬が大事に守るかのようにこちらを睨んでいるのが面白くて描いたという。
ズタ袋の後ろにはロッキングチェアが見えるが、ポーチには必ず椅子がおいてある。お年寄りが一日中椅子に座って外を眺めている光景は映画でもしょっちゅう出てくる。ポーチは「外の空間」だが、生活感にあふれたこの絵でわかるように、ポーチは居住空間でもある。
縁側からは室内が丸見えだし、すぐに畳の部屋に入れるから、プライバシー性はほとんど無い。対してポーチは玄関のドアを通らなければ室内へ入れない。そこが縁側と大きく違う。
この「The Swinger」ではポーチに二人がけのブランコ椅子があるが、これもけっこう普通のようで、映画でもたまに見かける。この絵では、若い男が広々とした風景を眺めながらくつろいでいる。「何もしない時間の豊かさ」が感じ取れる。
この「Easter Sunday」のように、ポーチは屋根があるから、雨や雪でも、過ごすことができる。また夏でも、陽射しを避けられるので、快適に過ごせる。ポーチで飲んだり食べたりする光景もしょっちゅう映画で見かける。
なお、バルコニーやベランダも半戸外空間だが、2階以上にあって、直接外とつながっていないのでポーチとは根本的に異なる。