あまりなじみのない言葉ですが、「加速遠近法」というのがあり、とても面白いです。
透視図法の教科書にこんな図があります。6つの万年筆の絵で、左上の普通の大きさが、だんだん大きくなり、右下ではジャンボ旅客機のようになります。消失点に向けて、線を急角度で収斂させれば、向こうへビュンと飛んでいくかのように奥行きや大きさを強調できます。これが「加速遠近法」で、遠近法はこのように、一種のウソをつける道具です。
よく「パースがきつい」という言い方をしますが、「加速遠近法」の意味はそれに近い。なので、デザインや建築などの人たちは普通にやっているはずです。車のデザインスケッチで、迫力を出すために、よくこんな描き方をしますが、透視図法的に言うととんでもないことです。車に顔がくっつくくらい近くから見なければ、こんなきついパースでは見えません。
建築パースでも、実際より大きく見せたり、空間の奥行き感を強調したりするために利用されます。前回紹介したこのサーンレダムの絵で、左上の現場スケッチの方は、人間が目で見たときの感覚そのままを描いていますが、左下の遠近法を適用した絵では手前から奥へ向かって急速に大きさが変化して(まさに加速)、実際以上に空間が広く見えます。遠近法は物を正しく客観的に描く方法と信じられていますが、じつは実際にあり得ない非現実を表現できる方法でもあるわけです。
透視図法の技術が発達した17世紀の絵画には、遠近感を極端に強調した絵がたくさんあります。この架空の建築物は、目がくらむような壮大さを感じます。視軸は水平方向を向いているのに、首が痛くなるくらい見上げなければ見えないなずの建物上部まで描いているからです。これも遠近法を利用したイリュージョンです。
むかし学校の演習課題で、「構造的な根拠など無くてもいいから、とにかく何かできるだけ大きな人工物を描け」という時の自分の作品です。この場合、視線はかなたの地平線の方(消失点)を向いているのですが、建造物のいちばん手前はほぼ頭の真上に来ています。これは人間の視野角の限界を越えているので、実際にこんなふうに見えることはありえないわけですが、絵では描けてしまう。見えないところまで描くことによって、遠近感を「加速」させているわけです。
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