2015年4月2日木曜日

サーンレダム 建築パースの名人


サーンレダムは17世紀オランダの画家で、教会建築の内部空間を専門に描きました。フェルメールとほ同時代の人で。フェルメールの絵は遠近法の巧みさで有名ですが、遠近法の研究が進んでいた当時のオランダでは、他にも多くの画家がその技術を活かして絵を描きました。サーンレダムもその一人です。右は代表作のひとつですが、教会の内部空間の広々とした感じ、そして荘厳な感じが伝わってきます。それは。彼がすべての絵を一点透視で描いたことと関係しています。

サーンレダムの制作手順は以下のようだったそうです。「絵画」を描くのに、ここまでやるかといった感じで、まるで建築設計用のパースを描くようなプロセスです。

1)現場でドローイングし、部分的スケッチも作る。
2)現場の測量をして、建物各部の寸法を割り出す。
3)測量をもとに、平面図、立面図、などの図面化。
4)図面から遠近法を適用して透視図を作図する。
5)透視図を完成作の大きさに拡大し、下図を作る。
6)下図を板に転写して、油彩画として完成させる。

一番上は、現場でのフリーハンドのスケッチですが、望遠レンズで撮ったような奥行きのない、狭苦しい印象です。真ん中の透視図の作図では、前景が手前に向かって広々とします。一点透視図法で作図すると必然的にこうなるのですが、逆に言うと、そんな広々とした空間を屋内で実際に見ることはありえないわけで、狭苦しく見える現場ドローイングのほうが実際の体験に近いと言えます。教会空間をより壮大なものに見せるために、奥行きの遠近感を強調し、天井は実際以上に高く見えるように、遠近法の知識を駆使して描いたのです。一番下が、その完成油彩画です。



人間が実際にこのような広い空間を見るときは、首をあちこちに振って視線を移動することで全体を把握します。人間の視野角はけっこう狭いからです。ところが、絵に描くときはそうはいかず、視線の方向は固定しなければなりません。それでいて広い空間全体を描くには、どうしても視野角の広い絵にしなければなりません。

この絵で、梁の線を延長して消失点を求めると、だいたい丸印の位置くらいになります。そして、視野角は45°位までと言われているので、その位の同心円を描くと点線の円くらいになると思います。だから正面を注視している場合、この円の外は本来見えない部分なわけですが、そこまでをも描いています。

ところが、このように視野角を広くとると、透視図では歪みが生じます。左右に同じ太さの柱がありますが、左の柱は右よりもずいぶん太くなっています。左の柱は視軸からかなりはずれた所にあるので、歪みが生じているのです。画面を柱の途中で切ることで、目立たなくしようとはしていますが、やはり不自然です。左の図で、同じ大きさの立方体が平面上に並んでいますが、自然に見えるのは円の中までで、その外はとても立方体には見えません。これと同じ歪みが上の絵でも起きているわけです。これは透視図法の常識ですが、サーンレダムはあえてやっているのです。

透視図法は三次元空間を、幾何学的正確さで二次元上に描く技術であり、現実の世界を客観的に写しとる方法であると信じられています。ところが、サーンレダムの絵は、測量までして正確さを求め、図法的にも厳密さに徹しているにもかかわらず、視点位置や視野角などを巧妙に設定することによって、かえって実際に見える現実とは違う一種非現実的な「幻想」を生み出しているのです。


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