「Satantango」
今年のノーベル文学賞受賞者は、ハンガリーのクラスナホスカイ・ラースローという人だった。まったく知らなかった人だが、経歴をみて驚いた。同じくハンガリー人のタル・ベーラ監督の「サタンタンゴ」の原作を書いた人だった。
タル・ベーラ監督の映画は好きで、「ニーチェの馬」など見てきたが「サタンタンゴ」はまだ見ていなかった。ミニシアターでたまに上映されることがあるが、7時間という長尺のこの映画を、映画館で見続けるだけの体力に自信がなかったからだ。今度原作者がノーベル賞受賞ということで、DVD で観ることに決めて購入した。DVD は3枚組みで、見終わるのにまる一日かかる。
他のタル・ベーラ作品と同じく、この映画も白黒で撮られている。陰鬱で暗い映像に終始する。それは監督の終末論的な黙示録思想によるもので、この映画も最後まで救いのない「絶望」の物語だ。
専制独裁政治体制のもと、村の集団農場は破綻して荒廃している。農民たちは貧しく、路頭に迷う絶望的な生活をしている。人々は救世主が現れることを願っているが、そこにかつて反体制派のリーダーだった若い男が帰ってくる。その若者が悲惨な現状を打開してくれるだろうと期待を抱く。しかし今では彼は当局の回し者になっていた。人々は裏切られ、村は崩壊する・・・
タル・ベーラ監督自身が、「映画で肝心なのは物語よりも、空間や時間の組み立てそれ自体にある」と語っているとおり、映像で物語る映画だ。たとえば救世主と思われていた若者が村に帰ってくるシーンで、無数の紙片が風に舞っている。若者とその相棒の二人の後ろ姿を約2分間も長回しで追い続ける。この紙片は役所の書類で、若者が取り込まれた官僚主義を暗示しているといわれる有名なシーンだ。
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