2025年1月31日金曜日

ルドンの「グラン・ブーケ」

 Odilon Redon


三菱1号館美術館にルドンの「グラン・ブーケ」が常設展示されている。パステル画家のルドンの代表作のひとつだ。ここの展示はレプリカで、原画どうりの高さ 2 .5 m の大きさで、ガラスに印刷したものを裏からバックライト照明している。だからパステル画の色の鮮やかさが際立っている。パステル画愛好者は見た人が多いと思う。


この作品はもともと、ある貴族の依頼で、その居城に飾るために描かれたという。だから「装飾画」と呼ばれている。しかしルドンの本業(?)はギリシャ神話などを題材にした幻想的な「神話画」だが、やはり明るく鮮やかな色彩が活きている。

「オルフェウスの死」


2025年1月29日水曜日

映画「愛と哀しみの旅路」

 「COME SEE THE PARADISE」

一昨日の1/27 は「ハワイ移民出発の日」という記念日だそうで、どんな日かネットで調べたが、通り一遍で大事なことが書かれていない。

日本が真珠湾攻撃した時、ハワイに住む日本人移民が、真珠湾のアメリカ海軍の動静を調べて、それを日本に通報していたと言われている。そのため日系人は敵性国民とされ、拘束されて強制収容所へ送られた。

映画「愛と哀しみの旅路」(1990 年)は、太平洋戦争時代に、差別に苦しむ日系移民の苦難の歴史を描いている。

戦争が始まると、日系人はアリゾナの砂漠地帯の強制収容所に送られる。そのシーンが、ナチスもの映画によく出てくるユダヤ人がアウシュビッツに送られる光景とそっくりだ。その数は十数万人といわれるが、ほとんどがアメリカ市民権を持っているアメリカ人だ。そして収容所の過酷さもアウシュビッツとなんら変わらない。

主人公の女性の夫は、日系人と同じくアメリカで差別を受けているアイルランド系移民だ。彼は徴兵されて戦場送りになってしまう。この映画は、ともに差別を受ける側の日本人とアイルランド人を夫婦にすることで、アメリカの人種差別に対して抗議をしている。


この映画に描かれている移民に対する差別と偏見のアメリカの歴史は、トランプ大統領による移民排除として現代に繋がっている。(なお、アメリカ政府は 1993 年に、強制収容の誤りを認め、収容されていた日系人の生存者に一人2万ドルの補償金を支払った。)

2025年1月27日月曜日

直感的ユーザー・インターフェース

 Intuitive interface

去年のことだが、いつも利用している市立図書館の WEB サイトのシステム変更が行われた。そのとき、新システムの試行期間があり、それに対する利用者のパブリック・コメントを募集していた。なかなか良心的だ。それで、蔵書検索や貸し出し予約の「使いやすさ」についていくつかのコメントを送ったが、さらに詳しく聞きたいと今度は電話がかかってきた。行政機関としては、なかなか無いことで感心した。

一方で、同じ市のサイトでありながら、コロナのワクチン接種予約のサイトはひどかった。難しくて、予約完了するまで1時間くらいかかる。だから市役所に、職員が WEB 予約の代行をする窓口ができた。何のためのWEB 予約か、本末転倒のマンガ的光景だった。

そのサイトの難しい原因は、細かい文字の説明文が長々と続くことで、デジタルが苦手なお年寄りには、文章で何から何まで詳しく説明することが親切だと固く信じている。しかしそれは逆であることに気づいていない。「わかりやすく」「使いやすく」するには、文章による説明に頼ることなく、ユーザーが目で見るだけで直感的に理解できる「直感的ユーザー・インターフェース」が今では常識になっている。

Google の検索サイトは「直感的ユーザー・インターフェース」の代表とされている。画面中央に入力欄だけがあり、説明文などいっさい無い。何も考えることなく使える。


2025年1月25日土曜日

猫の脱走

Affordans 

知り合いが飼い猫を連れて我が家にきた時、文字どうり ”借りてきた猫” 状態だったが、スキをみて窓の外へ飛び出し、ベランダの手すりに飛び乗った。そこから下へ飛び降りようとしたが下を見てあきらめた。いくらジャンプが得意な猫でも、さすがに2階の高さからでは無理だと判断したようだ。

人間も同じで、50 cm の高さから飛び降りろと言われればできるが、3m では絶対お断りだ。この場合、過去に3m から飛び降りて足を挫いた経験があるから飛び降りないと決めたわけではない。学習によるのではなく、目で見てそれが飛び降りられる高さかどうかを判断している。

認知心理学者の J. J. ギブソンは、人間も動物も「視覚」から得られる「外部情報」にもとづいて行動していることを初めて提唱した。そして、環境が提供(アフォード)している視覚的情報の助けを借りることを「アフォーダンス」と命名した。それを理論的に解明したのが有名な「生態学的視覚論」だ。

この理論は、デザインに大きな影響を及ぼした。特にコンピュータが普及して「使いやすさ」が大きな問題になっている時代に、この理論が応用されるようになった。

パソコンのユーザー・インターフェースを、テキストではなく「アイコン」という視覚情報で行うことなどがそれだ。機械語を学習しなくても見るだけで使い方がわかる。画面の中で、「押す」という行為を促すために、押す部分を3次元的な「押しボタン」の形状で表現することなどいい例だ。

そんな時代になっても「アフォーダンス」を無視しているデザインもそこらじゅうにある。この例など典型で、前のドアは手間に引き、後ろのドアは横へスライドする。それなのに、2つのドアハンドルがまったく同じ形状になっていて、間違った情報をユーザーに与えている。


2025年1月23日木曜日

「THE VISUAL ARTS TODAY」


「THE VISUAL ARTS TODAY」は、絵画、彫刻、建築、写真、映画、など現代美術全般にわたる各分野の専門家の論考集。編著者のジョージ・ケペシュは、IIT や MIT の教授を務めた現代美術の理論家だ。各章のタイトルは

「仕事、余暇、創造性」
「象徴主義の起源」
「身体、精神、芸術」
「建築と芸術」
「写真について」
「芸術としての映画」
「リアリズムの二面性」
「有機的形態:科学的および美学的」
「科学と美学におけるシンメトリー」
「プロポーション概念の変遷」
「絵画、パースペクティブ、知覚」
「芸術的感性」
「ピカソの『ゲルニカ』について」
 などなど

この本は 1960 刊で、現代美術の作家たちが生きていた時代だったので、クレー、モンドリアン、ミロ、カンディンスキー、など作家自身の寄稿もあり興味深い。


「ピカソの『ゲルニカ』について」の章では、『ゲルニカ』が完成するまでのピカソの思考プロセスの紹介がある。構想の素描や、画面構成のスケッチ、などが掲載されている。


昔、「美学」の授業で、この本が教科書だった。輪講形式の授業で、学生が回ごとに担当する章を訳してきて、その概要を発表する。余白に書き込んだメモがそのまま残っていて懐かしい。担当教授が「造形理論」や「造形史」のオーソリティ小池新二先生(後に九州芸術工科大学の初代学長になった)だった。


2025年1月21日火曜日

ピサロの雪景色

 Pissarro

1/ 20 は「大寒」というそうだ。初雪はまだないが、たしかに本格的に寒くなってきた。それで改めてピサロの雪景色の絵を鑑賞。ピサロは、住んでいたパリ郊外のルーヴシエンヌという村で、雪景色を描いた。ピサロは、印象派の ”お父さん” と呼ばれるくらい温厚な性格だったそうだが、寒い風景の絵でも見ていて気持ちが温かくなる。



2025年1月19日日曜日

絵のために、PHOTOSHOP を利用してみる

  PHOTOSHOP

街を歩いていたらこんな工事中のビルを見かけた。光と影の構成が面白くて、絵にしたくなった。この素材をどう料理するか考えているなかで、頭の中のイメージ作りに役にたつのではないかと、 PHOTOSHOP を使ってみた。元画像をいろいろ加工してみるとヒントが得られる。これらをそのまま絵にするわけではないが発想の助けになる。

元画像。

「あおり補正」をして、元画像と比べてみる。

「ストローク」機能で輪郭をぼかし、筆で描いたようなイメージにする。

「フィルター」がたくさんあるが、その中の「エッジ」機能を使ってみる。

「2階層化」機能で、完全な白黒にしてみる。


2025年1月18日土曜日

阪神淡路大震災から 30 年

 Huge earthquake

今日は、1995.1.17. の阪神淡路大震災から 30 年だった。この間の能登半島地震は、2024.1.1. で、東日本大震災が 2011.3.11. だった。どうも「1.1.」のゾロ目の日に悪いことが起きるようだ。(そういえばアメリカの同時多発テロも 9.11. だった)

「阪神」も「能登」も遠くて実感がなかったが、「東日本」は強く印象に残っている。東北からはるか離れた関東でも揺れがひどく、地震のエネルギーの強烈さを実感した。たまたまその時、高層ビルの上層階にいたが、揺れるどころでなく、ドンと突かれて向こうの壁まで飛んでいかされる。しかもこのビルは完成したばかりで、地震初体験だ。耐震設計が大丈夫かどうかのテストをされているようなもので、その恐怖が大きかった。

電車は完全ストップだが、自宅へ連絡しようにも携帯は繋がらないし、駅前に一つだけある公衆電話は長蛇の列。働いていた職場が JR の駅のまん前で、帰宅困難者の宿泊施設に指定されていたからたいへんだった。数千人の人たちへ、毛布や飲み物や軽食などの支援の手伝いもした。

かつてさかんに研究されていた「地震予知」は、今ではもう不可能であるとの結論が出ているという。気象庁もそのことをはっきり言っている。だから「防災」といっても、できることはたかがしれている。


2025年1月15日水曜日

学生レポートのいろいろ

 Student report

学生のレポート課題は、社会人になったときに必要な「考える力」の訓練のために果す。だから例えば、「⚪︎⚪︎ の現状について考え、その問題点を記せ」などというかたちで出題する。それでも「コピペレポート」が絶えない。ネットで検索して、使えそうなネタをそのまま書き写す。それでもせめて要約して要点だけを簡潔に記せばまだしもだが、ムダな細かいことまでダラダラと 100% そのまま書く。「考えること」どころか要約さえもしない思考停止状態だ。究極は、生成 AI のソフトを使って、その答えをそのままコピーする。これはもちろん0点になる。100 点になるのは、文章が稚拙でも、自分で考えたことを書いているレポートだ。


2025年1月13日月曜日

プロダクションデザイナーの仕事

Production Designer

以前、映画の「プロダクション・デザイナー」について書いたが、その続き。「プロダクション・デザイナー」は映画のビジュアルに関わるデザインを総合的に行うのが仕事で、特にセットのデザインは重要だ。「映画美術から学ぶ「世界」のつくり方」で、ハリウッドの有力なプロダクション・デザイナーたちが紹介されているが、その中に日本人の種田陽平がいる。種田陽平はタランティーノ監督の「キル・ビル」などを手がけたが、日本映画の「パラダイス大通り」も担当している。

脚本は文字だけだから、具体的なビジュアルのイメージを作るのがプロダクション・デザイナーだ。この映画では、架空の港町のセットをデザインしている。現実にありそうで非現実的でもある街並みで、脚本に書かれた独特の世界観を可視化している。ビジュアルイメージを作り出すにはイマジネーション力が必要だが、イメージを可視化する絵画力も必要だ。種田も武蔵美出身だ。


2025年1月11日土曜日

映画「アイリッシュマン」

 「Irishman」

「アイリッシュマン」(2019  NETFLIX)は、スコセッシ監督の傑作のひとつだと思う。ロバート・デ・ニーロや、アル・パチーノなどが出演する3時間半に及ぶ大作だ。1950 年代アメリカで、マフィアが暗躍していた時代の実話に基づいている。労働組合指導者の座をめぐる権力闘争と、その裏でうごめくマフィアの犯罪組織を描いている。主人公はその裏社会で殺し屋として頭角をあらわしていく。


題名のとうり、主人公の殺し屋はアイルランド系移民だ。マフィアといえば、映画「ゴッドファーザー」のように、イタリア系移民が有名だが、それと並ぶくらいアイルランド系移民が大勢力を誇っていたという。

政治学が専門の村田晃嗣氏によれば、歴史上、多くのアイルランド人が新天地アメリカにやってきて、20 世紀までの総数は 700 万人にものぼるという。その大量移民で、酒と喧嘩が大好きというアイルランド人気質が嫌われ、アイルランド移民排斥の差別や偏見にさらされたという。それが彼らを団結させ、マフィアのような裏社会での権力を握るようになったという。

アイルランド系移民の物語は、ハリウッド映画に数多く登場する。例えば「遙かなる大地へ」を思い出す。アイルランドの貧農の若者(トム・クルーズ)が地元の娘(ニコール・キッドマン)とともにアメリカンドリームを夢見て、アメリカへ渡る。西部の未開拓の荒野で、先着順に土地をタダであげるという競争に参加して自らの土地を手にいれる、というサクセス・ストーリーだった。

これらの映画は、貧しい小国のアイルランド人の悲哀と、かれらがアメリカへ渡って成功したり、権力の座へ上り詰める成功物語で、「アイリッシュマン」もそのひとつだ。


2025年1月9日木曜日

日鉄の USS 買収

 Nippon Steel's Attempt to acquire U.S. Steel

日本製鉄の US スチール買収が政治問題化してきた。バイデン現大統領が買収禁止を決めて、訴訟に発展している。

現在の鉄鋼業の世界シェアを調べると、1位が中国、2位がインド、3位が日本で、アメリカは 10 位内にも入っていない。かつて世界一だった USS 凋落の原因は、技術革新(イノベーション)の立ち遅れだといわれている。

これからの鉄鋼産業の最大課題は「脱 CO2 」だという。鉄鉱石と石炭を大量に排出する高炉方式から、再生可能エネルギーを使う「グリーンスチール」へ世界中が競い合っている。その点でもアメリカは遅れをとっていて、日本は優位に立っている。それが今度の日鉄の USS 買収の原因になっている。

中学生のとき学校で、地元の製鉄工場を見学したことがある。そのときのことで一つだけはっきり覚えているのが、「煙突を見てください。煙が白いですね。出ているのは水蒸気だけだからで、排出ガスから有害物質を取り除いてクリーンにしています。」と説明の人が言っていた。それに妙に感心したのだが、今になって思うと、「CO2 削減」などという言葉さえなかった 70 年も前からすでに日本は技術革新に取り組んでいたことがわかる。

USS が輝いていた 1960 年代に出した広報誌を今でも持っている。題名が「INNOVATIONS」(イノベーション)で、第1ページ目に、「USS : その大きな思いはイノベーションだ」とある。今みると皮肉だ。

2025年1月7日火曜日

映画の上映時間

 Running time for movie


NETFLIX などのネット配信の映画は上映時間は長い。シリーズ化されている作品が多く、10 時間超えは当たり前だ。データによれば、興行収入上位 30 位の映画の平均上映時間は 132 分と、10 年前より13 分長くなっているという。映画館での上映の制約を受けないネット配信映画の影響が大きい。

そのことと反対の現象が、若者を中心した「タイパ」という映画の観かただ。短時間で   ”効率的に" 映画を観る人たちについて書いた「映画を早送りで観る人たち」(稲田豊史)が実に面白い。「2時間の映画を1時間で観たい」「つまらないと感じたら後はずっと 1.5 倍速」「会話のないシーンは即飛ばす」「観る前にネタバレサイトをチェック」など、「タイパ」人間の実態を暴いているが、そういう観方を可能にしているのがネット配信だ。だから、ネット配信映画の長時間化と、「タイパ」は矛盾しないのだろう。

表情を映しているだけで会話のないシーンや、スートーリーに直接関係のない風景だけを映しているシーンなど、映画がその意味を知らせてくれず、自分で解釈しなければならない場面は多いが、「タイパ」の人たちはそれを「ムダ」だと感じてしまう。


2025年1月5日日曜日

「ミュシャ展」

Mucha


「ミュシャ展」をギリギリ最終日に鑑賞した。(横浜そごう美術館) アールヌーボー美術の先駆者といわれ、ポスターが有名だが、今回は、本の挿絵、パッケージデザイン、香水のビン、装飾品、などの展示があり、ミュシャのマルチタレントぶりに焦点を当てた企画になっている。知らなかったミュシャの一面を見ることができる。

チョコレートやビスケットの缶のデザイン


振り返ってみると、日本で大人気のミュシャなので、何度も展覧会が開かれてきたが、その度に企画に工夫が凝らされている。印象的だったのは2019 年の、渋谷「Bunkamura」での「ミュシャ展」で、ミュシャの日本への影響を取り上げていた。大正時代の本の装丁が、ミュシャスタイルの大きな影響を受けていた。そしてミュシャの繊細な線描による女性の描き方は、現在の漫画やアニメにまで受け継がれている。



そして最も強烈に印象的だったのが 2017 年の国立新美術館での「ミュシャ展」だった。「スラブ叙事詩」という、ミュシャの祖国チェコの歴史をテーマにした超大作シリーズだった。国立新美術館の特別室の高い天井まで届く大迫力の絵で、全 20 点全てが展示されていた。本国チェコ以外への貸し出しはこの時の日本だけ、という貴重な展覧会だった。チェコが外国に支配されてきた時代に、独立への強い願いを描いた、民族主義的な色あいの強い絵画だ。


2025年1月3日金曜日

ピンクの歴史

History of Pink

日経新聞の文化欄の「なるほど!ルーツ調査隊」(2024.11.18)という特集の「ピンク色の歴史」の記事が面白かった。同記事によれば、「男の子は青、女の子はピンク」というジェンダーバイアスが生まれたのは新しく、第二次世界大戦後だというのが意外だった。 

女性がピンクを着始めたのは 18 世紀のロココ時代からだという。フランスの貴族階級でピンクの衣装が大流行したそうで、その後世界へ広まった。確かにロココ美術の代表作フラゴナールのブランコをする女の子が鮮やかなピンクの衣装で描かれている。ただしこの頃は女性だけでなく男性もピンクを着たという。

19 世紀の「不思議の国のアリス」は原作の挿絵が白黒だったが、その後出たたくさんの絵本や映画は全てアリスの服は青になっている。まだ「女の子はピンク」というイメージはなかった。

20世紀になっても、アメリカのデパートの子供服の広告で「男の子はピンク、女の子は青」というキャッチコピーがあったそうで、今と真逆だったそうだ。

20 世紀初めのアール・デコ時代を舞台にした映画「華麗なるギャツビー」でも R・レッドフォードが演じるギャツビーがピンクのスーツを着ていた。ある研究者によれば「ピンクは当時、女らしさというより、育ちの悪さの象徴として受け止められていた」という。たしかにギャツビーは怪しげな商売で金儲けした成り上がりの金持ちだった。

未見だが、同記事によれば、第二次世界大戦後の1957 年の映画「パリの恋人」が画期的だったという。ピンクの衣装の出演者が「黒を追放せよ、ブルーを焼き払え、ベージュを埋葬せよ」と歌うミュージカルで、戦時中に女性が抑圧された時代から解放された当時にピンクはピッタリだったようだ。

そして「ピンクは女性の象徴」というイメージが出来上がる。高度経済成長の時代、アメリカでも日本でも、電化製品などで「女性むけ」製品が作られるようになり、それらは必ずピンク色にデザインされた。女の子向け人形の「バービー」はその極め付けだった。そして現在は「女の子はピンク」というのは「ジェンダーバイアス」としてネガティブに捉えられるようになった。(映画「バービー」については前回投稿)


2025年1月1日水曜日

映画「バービー」のピンク色

 Barbie and Pink-color

前回のアカデミー賞の有力候補だったが受賞を逃した「バービー」をあらためて見た。映画としては駄作だが、正面から「ジェンダー」をテーマにしている点では面白い。

「男社会」の現実世界と真逆の「女社会」が舞台で、さまざまな職業のバービー人形たちが人間の姿で登場する。彼女たちが世の中を牛耳っていて、男は従属的な存在だ。

「男の子は青、女の子はピンク」は「男は仕事、女は家事」と並んで「ジェンダーバイアス」の代表だが、この映画の ”理想の” 女社会は、建物も車も衣服もピンクで埋め尽くされている。

映画でバービーが現実社会へ入っていく場面がある。バービー人形を作っている「マテル社」の重役会議へ迷い込むが、全員が黒スーツにネクタイのオジサンだ。女の子に ”夢を与える” 商品を作っているのは、男たちがビジネスで儲けるためでしかないという現実を皮肉っている。

「男社会」が女性を「人形」扱いしているが、女性自身も可愛い「人形」でいることに満足して、人間としての自立心がない、という現実をパロディにした映画だ。