「TITANIC」
「メロドラマ」の定義としては、「女性映画や、家族の緊張感を描く映画、およびお涙頂戴ものを指す映画ジャンル」とか、もっと大雑把に「低俗な、あまり出来の良くない、センチメンタルなドラマ」といわれることが多い。
しかしメロドラマについてのもっと深い研究がされている。「メロドラマとハリウッド映画」(福田京一)では「メロドラマ」とは、「悪人の犠牲になる弱い善人(ヒロイン=通常は純真な女性)が、紆余曲折を経て正義のヒーローに助けられ、両者がめでたく結婚する、という筋立てをもつ。とりわけ悪人の登場は、モラルと社会秩序の意義を教えるためにメロドラマには欠かせない。」
その典型例として「タイタニック」をあげている。この映画は、「女性映画」「恋愛映画」「ヒーロー映画」「デイザスター映画」などの要素を含みながら、物語の基本は、悪人(キャル)に苦しめられているヒロイン(ローズ)を、ヒーロー(ジャック)が助けるという「古典的メロドラマ」のプロットを土台にしている。
「タイタニック」が沈没した 20 世紀初頭のイギリスは、女性が家父長制に縛られ、苦しめられていた歴史を背景にしている。没落した貴族であるローズの母親は娘の幸福を考えるよりも、娘を金持ちの実業家キャルに差し出して、上流階級に留まろうとする。一方でローズの婚約者であるキャルは、名誉欲と虚栄心が強く、女性を飾り物としか見ていない。この状況を女性の運命として受け入れていたローズが、それを拒否するようになる。そのきっかけが、あらゆる束縛を嫌い、自由であることを何より大切にする、無垢な心を持つ青年ジャックとの出会いだった。
「タイタニック」のような「古典的メロドラマ」では、ヒーローやヒロインの美徳は超越的、絶対的な価値であり、悪は必ず負けることになっている。しかし近年のメロドラマは、ハリウッド映画のさまざまな映画ジャンルと結びついている。それはアメリカの政治・文化と強い関係を持っていて、階級、民族、人種、ジェンダー、などについての善悪が対立する物語に置き換えられる。それらは善悪二元論的な世界観が強調されがちになる傾向がある。
福田氏によればさらに、映画に限らず SNS などのネットメディアでも、それぞれの政治的・文化的分脈の中で、善と悪を過激に、感情的に、扇情的に描き、批判し、報道し、論評したりする。このような独善的な正義感は、メロドラマ的な世界観の極端な形であり、そのことに我々は注意を払う必要がある、としている。
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