2024年4月22日月曜日

絵画的な映画「天国の門」

「Heaven's Gate」 

映像が美しい絵画的な映画といえば No.1 は「天国の門」だろう。マイケル・チミノ監督のこの映画は巨額の制作費をかけたが、興行的には大失敗して非難を浴びたといういわくつきの作品だ。撮影監督がヴィルモス・ジグモンドという人で、若い頃に美術の勉強をして、構図・光・色彩などについての感覚を身につけたという。映画が絵画的なのはそのためだ。


19 世紀末、東欧からの移民が大量にアメリカ西部に移住してきて小さな町に住み着く。しかし町を支配する牧場主たちから敵視され、迫害を受ける・・・というのがメインのストーリー。移民の列のシーンで、彼らの悲惨さを表現している。人の列が土ほこりでかすんでいたり、青空を黒に近く暗くしているのは、現像時の操作によるもの。


町の風景の場面で、建物から煙が立ち昇っていて、晴れているのに空は暗い。この不気味な感覚がこの街の不穏さを表現している。また全編が古い写真のようにセピアを基調色にしていて、19 世紀の時代の雰囲気を出している。なおこのように画面全体が人で埋まっているシーンが多く出てくるが、エキストラを大量に雇っているからで、制作費が高騰した原因だと言われている。

室内の場面。モヤがかかっていて、窓から差し込む光が強調されている。実際に煙をたいて撮っている。「ディフュージョン」と呼ばれ、光を拡散させる手法で、コントラストを弱め柔らかい画面になる。

町を支配する牧畜業者たちは、移民たちを皆殺しにする決定をする。移民たちは対抗するために銃を持って立ち向かい、戦争になる。壮絶な戦闘シーンだが、カメラはあくまで絵として美しく撮ろうとしている。土煙でかすんだセピア一色のモノトーンだったり、逆光のもとで川を渡る男たちなど。


映画の最初にハーバード大学の華やかな卒業式の場面があり、これが延々と20 分も続く。本題と関係がないのになぜか。エリートとして社会正義のために尽くすことが使命の彼らだが、この中の二人が後に上記の戦闘の指導者として戦うことになる。厳しい断絶の階級社会を描いたこの映画にとって重要な場面だ。


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