2024年2月1日木曜日

映画「愛と哀しみの旅路」の日本人移民の苦しみ 

 「COME SEE THE PARADISE」

「人種のるつぼ」といわれるアメリカ社会だから、映画も「移民」を題材にした作品がとても多い。例えば「ブルックリン」(2015 年)は印象的な映画だった。アイルランドの田舎から一人でニューヨークへ移民してきた若い女性の、苦悩を描いている。豊かな生活を求めてアメリカへ来たものの、そのギスギスした競争社会を知って、貧しいが平和な母国へ戻ろうかと思い悩む・・・ アメリカ移民の数はアイルランド人が最大だったため、その大量移民がアメリカ人の職を奪うとして「アイリッシュお断り」と差別を受けたという。「ブルックリン」は、そういうアイルランド人のアメリカ社会での生きにくさや苦しさを描いている。

それに比べると日系アメリカ人は数が少ないぶん映画の題材になることはほとんどない。一作だけ見つけたのが「愛と哀しみの旅路」(1990 年)だ。日系移民二世の女性のアメリカでの苦難の人生を描いている。

ロサンジェルスのリトルトウキョウで日系人相手の仕事をしていた彼女はそれなりに平穏に暮らしていたが、やがて恋人ができ結婚して子供も生まれる。しかし子供のおもちゃを買おうとしても売ってくれないなど日本人は差別を受けている。やがて太平洋戦争が始まると、日系人は敵性国民とされ、全員が拘束され、アリゾナの砂漠にある強制収容所に送られる。主人公の女性もその一人で、収容所での過酷な生活が描かれている。


これは日系人が収容所へ送られるシーンだが、ナチスもの映画によく出てくるユダヤ人がアウシュビッツに送られるシーンと変わらない。その数は十数万人といわれるが、ほとんどがアメリカ市民権を持っているアメリカ人だ。真珠湾攻撃の際に、ハワイの日系人が、真珠湾のアメリカ海軍の動静を日本に通報していたのではないかと疑われたことが強制収容のきっかけだった。(アメリカ政府は 1993 年に、この強制収容の誤りを認め、収容されていた日系人の生存者に一人2万ドルの補償金を支払った。)

ところで、主人公の女性は同じ日系2世の男との見合いを断って結婚したのはアイルランド系の若者だった。冒頭の「ブルックリン」と同じく、アイルランド人の彼は差別を受けている。工場で働いているがすぐにクビになり、次の職場でもまたクビになる。ついに徴兵されるが徴兵検査官は、アメリカに忠誠を誓えと迫る。しかし彼は NOと言い戦場送りになってしまう。映画はともに差別を受ける側の日本人とアイルランド人を夫婦にすることで、アメリカの人種差別に対して抗議をしている。

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