「L' Etranger」
毎日ジリジリするような暑さが続くと、つい思い出すのがカミュの「異邦人」で、灼熱の夏のアルジェリアを舞台にしている。この作品でノーベル文学賞をもらったカミュの名作だが、書き出しの最初の文章が超有名で、たったこれだけで主人公のすべてを表現している。『今日、ママが死んだ。それとも昨日か、僕は知らない。老人ホームから電報が来たが、「ハハウエシス」だけで、これでは何もわからない。たぶん昨日なのだろう。』
その日、女友達と海水浴をして遊んだあと、映画館へ行って喜劇映画を見て大笑いする。次の日、海岸を散歩していると、ナイフを持ったアラブ人に襲われるが、たまたま持っていたピストルで、5発も射って相手を殺してしまう。そして、まぶしい「太陽のせいだ」とつぶやく・・・
この「太陽のせい」のシーンはこう書かれている。『アラブ人が短刀を抜き、日向でそれを僕に向けた。(中略) 眉毛の中に溜まった汗のカーテンで眼が見えなくなり、短刀から吹き出す光った剣を眼前にぼんやり感じるだけだった。(中略) 僕は全存在を緊張させ、手をピストルの上に引きつらせた。(中略) 短いが耳を聾する音の中で僕は汗と太陽を振り払った。(中略) そこで僕は身動きしない身体にさらに4発撃った。弾丸は跡を見せずに、食い込んだ。』
カミュの死後、小説が映画化された。(「異邦人」、1968 年、ルキノ・ヴィスコンティ監督、マルチェロ・マストロヤンニ主演 )全編が原作に忠実で、この「太陽のせい」の場面も原文をそのまま映像化している。汗びっしょりのマストロヤンニの顔にナイフの光が反射して、顔が眩しさで歪んでいる。文章も映像も、めまいを起こすような、灼けつく太陽を見事に表現している。