2022年10月17日月曜日

エドワード・ホッパーの「盗み見る」視線

 Edward Hopper

ホッパーには、見知らぬ女性が一人だけポツンといるのを盗み見るように描いた絵がたくさんある。いずれも公共の場所なのだが、まわりには誰もいず、「女ひとり」を描いている。彼女たちは無表情で、何かの物語性を感じさせるようには描かれていないが、観る人はいろいろなことを想像してしまう。そこに共通しているのは、ニューヨークという大都会に暮らす女性たちの孤独や憂愁だ。


「オートマット」 深夜営業の簡易食堂で、女性は物思いにふけりながら、じっとコーヒーカップを見つめている。昼間の仕事を終えてホッとしているのか、憂いの気分なのか。
「カフェテリアの日差し」 朝日が差し込む明るいカフェテリア。女性の表情に朝の元気さはなく、むしろ倦怠感を感じる。
「ホテルの窓」 夜のホテルのロビーで、着飾った中年女性が窓から暗い通りを眺めている。まだ来ない待ち人を待っているのだろうか、
「ホテルのロビー」 ホテルのロビーの女性を上から覗き見のように見下ろしている。ホッパーは、このように女性の脚を強調して描くことが多い。
「コンパートメント・カー」 他に乗客がいない汽車のコンパートメントで、女性ひとりが雑誌を読んでいる。窓外は夕暮れの田舎の風景で、どこか遠くへ出かけるのだろうか。
「ニューヨークのオフィス」 オフィスの女性を道路の反対側から窓越しに見ている。社員も通行人もいない。ニューヨークの喧騒はなく、まるで無人の街のようだ。
「ニューヨーク・ムービー」 劇場風の豪華な映画館で、映画が上映されている。案内嬢がうつむいて、物思いに沈んでいる。黒い壁が彼女と客席を区切っているが、それは豪華に輝く世界と、そこで働く自分とを区切る心理的な距離感のようだ。
「夜の窓」 ホッパーは夜の高架鉄道の電車に乗って、他人の家の灯りのついた部屋を窓越しに盗み見るのが ”趣味” だったという。これも視点が高いから、電車から見た光景だろうか。女性が着替えしているのを写真の盗撮のように描いている。

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