William Golding " The Inheritors "
カズオ・イシグロがノーベル賞を受賞したので、同じくイギリス人作家で 1984 年のノーベル文学賞受賞者ウィリアム・ゴールディングを思い出した。「後継者たち」という面白い作品がある。「後継者」とは数万年前にネアンデルタール人の後にそれに代わった人類ホモサピエンスのこと。両者の勢力がいれ替わっていく様子を架空の村の物語として描いている。人類が今の文明を作ってきた原点の物語だ。
村の近くに川が流れている。しかしネアンデルタール人の村人たちは川を渡れないので限られた土地でささやかに生活している。やがて彼らが「新しい人たち」と呼ぶホモサピエンスがやってくる。しばらくするとサピエンスたちは木を倒し、その丸太を川に渡して橋を作ってしまう。そして橋によって自分たちの生活圏を広げていく。橋というまだ存在しないものを頭に思い浮かべることができる能力はネアンデルタール人には無かったものだ。橋を作るときサピエンスは「頭の中に絵が見える」と言う。まさにデザインをしている。この力が生存競争に勝って人類が現在まで続いてきた原動力だった。
しかしゴールディングが言いたいのはそういう人間の力を賛美することではない。逆に橋を作ることは、今の時代の開発による自然破壊や富を奪い合う争いなどにつながる出発点だった、と言いたいようだ。自然のままにピュアに生きていたネアンデルタール人を滅ぼして、その後の人類が作ってきた「進歩」への懐疑を投げかけている。
2017年12月31日日曜日
2017年12月28日木曜日
ピサロの模写
Copied a picture by Pissarro
ピサロの絵を模写した。といってもたしか 25 年くらい前の、印象派が大好きだった頃のもの。のどかな田舎道をよく描いたピサロの絵が特に好きだった。一点透視の構図が多く、ずっと先までその道を歩いて行きたい気分にさせられる。この絵はたぶん冬なのだろう、低い太陽の日差しが右側の家と道路に当たっている。澄んだ空気感が気持ちいい。印象派が発見した " Warm light , Cool shadow " が効果を発揮している。歩道と車道の境目が完全な垂直線になっているのでピサロはそこにまたがって描いているはずだ。その境目を男女二人が段違いで歩いてくるのが面白い。
オルセー美術館に行った時、この絵があったので思わず写真を撮ってしまい、それもフラッシュオンのままだったのでまわりからにらまれてしまった思い出がある。
ピサロの絵を模写した。といってもたしか 25 年くらい前の、印象派が大好きだった頃のもの。のどかな田舎道をよく描いたピサロの絵が特に好きだった。一点透視の構図が多く、ずっと先までその道を歩いて行きたい気分にさせられる。この絵はたぶん冬なのだろう、低い太陽の日差しが右側の家と道路に当たっている。澄んだ空気感が気持ちいい。印象派が発見した " Warm light , Cool shadow " が効果を発揮している。歩道と車道の境目が完全な垂直線になっているのでピサロはそこにまたがって描いているはずだ。その境目を男女二人が段違いで歩いてくるのが面白い。
オルセー美術館に行った時、この絵があったので思わず写真を撮ってしまい、それもフラッシュオンのままだったのでまわりからにらまれてしまった思い出がある。
2017年12月25日月曜日
映画「ヒエロニムス・ボス」と 「快楽の園」の怪物たち
Movie " Hieronymus Bosch "
今年は「奇想絵画」の企画展の当たり年だった。「ベルギー奇想の系譜展」「アルチンボルト展」「バベルの塔展」などだがその締めくくりのような映画がきた。「ヒエロニムス・ボス」は代表作の「快楽の園」をどう理解するかを画家や美術史家が語るドキュメンタリー映画。(渋谷イメージフォーラム)
無数の男女が繰り広げる快楽の狂騒と、罰としての地獄が描かれているが、映画では細部がクローズアップされるので新たな面白さに気づく。なかでもたくさんの怪物がいて人間を食っているのが面白い。動物や鳥や虫がモチーフの怪物たちは怖いながらもユーモラスだ。ボスのイマジネーションのすごさで、「悪魔のクリエーター」と呼ばれるのが分かる。(写真:「快楽の園」神原正明著 より)
無数の男女が繰り広げる快楽の狂騒と、罰としての地獄が描かれているが、映画では細部がクローズアップされるので新たな面白さに気づく。なかでもたくさんの怪物がいて人間を食っているのが面白い。動物や鳥や虫がモチーフの怪物たちは怖いながらもユーモラスだ。ボスのイマジネーションのすごさで、「悪魔のクリエーター」と呼ばれるのが分かる。(写真:「快楽の園」神原正明著 より)
2017年12月22日金曜日
読書禁止社会のディストピア映画
Dystopia movies of book ban society
本によって大衆が知識・情報を知ることは権力者にとって不都合なことが多いから、読書禁止はいつの時代にも行われてきた。現在でもネット規制や言論統制をする国があるのも同じで、今につながっている。そんな暗い社会がテーマの秀作映画5つ。
「アレクサンドリア」 古代ローマの高度な文化を象徴する大学兼図書館で天文学の研究をしている主人公の女性は4世紀に実在した人物。キリスト教が暴力的な手段で勢力を拡大していた時代で、暴徒化した信者たちが襲撃して主人公を殺し図書館の本を燃やす。神が唯一絶対のキリスト教にとって科学や知識は敵だ。
「神々のたそがれ」 中世が暗黒時代と呼ばれる理由がよく分かる究極のディストピア映画。キリスト教会がヨーロッパの支配者だったこの時代、読書は厳重に禁止されていた。本を隠し持っている人間を探し出し、その場で首吊りの処刑をする恐怖の社会が暗く描かれている。
「薔薇の名前」 同じく中世。民衆が神の教えに疑問を持たないよう、本は人目に触れない修道院内の秘密の図書館に隠されている。印刷術が無いこの時代、本は修道僧たちが筆写して、自分たちで独占している。それでも本を盗み見ようとする者の運命は・・ 連続殺人事件の謎解きがされていく名作ミステリー映画。
「やさしい本泥棒」 全体主義ナチスは「非ドイツ」的な本を弾圧し、摘発した本を積み上げ火をつける焚書を行った。ある有名作家が「本を焼くものは、やがて人間も焼くようになる」と予言したが、歴史はその通りになった。一人の少女が火の中からそっと一冊の本を抜き取りポケットに入れて・・・
「華氏451」 本禁止の全体主義国家を描いた SF 映画。情報は全て政府が流すテレビ番組だけに統制されているディストピア社会。警察が本を取り締まり、見つけしだい火炎放射器で持ち主ごと焼いてしまう。山奥に逃げた人々は一人一冊の本を丸暗記することで「人間の本」になり、人類の遺産を残そうとする。
本によって大衆が知識・情報を知ることは権力者にとって不都合なことが多いから、読書禁止はいつの時代にも行われてきた。現在でもネット規制や言論統制をする国があるのも同じで、今につながっている。そんな暗い社会がテーマの秀作映画5つ。
2017年12月19日火曜日
製鉄工場(ファイナル)
Iron Works
中学生の時、学校から川崎製鉄の工場を見学に行ったことがあった。説明の人が、煙が白いのは排出ガスの浄化が完全だからですと言っていたのを今でも覚えている。まだ環境問題など騒がれていない時代で、製鉄が日本をひっぱる先端産業だったことのあらわれだと思う。それから60年後の今、「産業の米」は鉄から半導体に移り、製鉄は産業の主役でなくなった。この工場はもと日本鋼管だが、生き残りのために、その川崎製鉄と合併して JFE という会社になった。今の銀ピカの半導体工場などと違って、こういう煙を出して黒ずんだ昔ながらの工場は数少なくなった。威容を誇ってはいるが遺されたもの感の強い工場の遺跡的なイメージを描いてみた。
中学生の時、学校から川崎製鉄の工場を見学に行ったことがあった。説明の人が、煙が白いのは排出ガスの浄化が完全だからですと言っていたのを今でも覚えている。まだ環境問題など騒がれていない時代で、製鉄が日本をひっぱる先端産業だったことのあらわれだと思う。それから60年後の今、「産業の米」は鉄から半導体に移り、製鉄は産業の主役でなくなった。この工場はもと日本鋼管だが、生き残りのために、その川崎製鉄と合併して JFE という会社になった。今の銀ピカの半導体工場などと違って、こういう煙を出して黒ずんだ昔ながらの工場は数少なくなった。威容を誇ってはいるが遺されたもの感の強い工場の遺跡的なイメージを描いてみた。
"Remains" Pastel, Primed with pumice on board, 100cm × 80cm
2017年12月16日土曜日
2017年12月13日水曜日
2017年12月10日日曜日
「作家はウソで真実を語る」
Artists use lies to tell the truth
ある映画を見ていたら「作家はウソで真実を語る」というセリフが出てきた。シンプルに核心をついた言い方で感心した。同様に「映画監督はウソで真実を語る」とか「画家はウソで真実を語る」とも言い替えられると思う。「リアリティ」は本当らしさだが、ありのままをその通りに描けば本当らしくなるとは限らず、逆にウソが必要ということだろう。
例えば、普通 SF は100% ウソだが、いい SF は普段見えていない現実をウソを通して見せてくれる。ノーベル賞のカズオ・イシグロの「私を離さないで」は一応 SF に分類されているが SF という感じがしないのはウソが高度だからだろう。
ある映画を見ていたら「作家はウソで真実を語る」というセリフが出てきた。シンプルに核心をついた言い方で感心した。同様に「映画監督はウソで真実を語る」とか「画家はウソで真実を語る」とも言い替えられると思う。「リアリティ」は本当らしさだが、ありのままをその通りに描けば本当らしくなるとは限らず、逆にウソが必要ということだろう。
例えば、普通 SF は100% ウソだが、いい SF は普段見えていない現実をウソを通して見せてくれる。ノーベル賞のカズオ・イシグロの「私を離さないで」は一応 SF に分類されているが SF という感じがしないのはウソが高度だからだろう。
映画化された「私を離さないで」にこんな印象的なシーンがあった。特殊な施設で育ったこの若者たちは普通の社会経験がない。初めて入ったカフェで「ご注文は?」と聞かれて固まってしまう。"純粋培養"された若者たちの悲しさがリアルに表現されていた。イシグロのこの作品は、誰もが決められた運命のもとで生きているにすぎない(真実)ことを語るために、この特殊な若者たちをメタファー(ウソ)として使っている。
2017年12月7日木曜日
映画「婚約者の友人」
Movie "Franz"
第一次大戦の終戦直後、敵国だったフランスの青年がドイツの女性の前に突然現れる。なぜか?から始まるサスペンスタッチの映画。戦争の犠牲とその赦しが主題の映画(独仏共同制作)で予想以上に面白くミニシアターだけの上映はもったいない。
マネの絵「自殺」がストーリーの重要なキーになっている。(ピストル自殺した男の絵だがマネの作品としてはあまり有名ではない)ラストシーンの主人公の女性がルーブル美術館でこの絵を見ている場面で白黒だった画面が初めてカラーになる。そして「この絵を見ると生きる勇気が湧いてくる」とつぶやく。自殺の絵を見て生きたいとはなぜか? の説明は控える。
第一次大戦の終戦直後、敵国だったフランスの青年がドイツの女性の前に突然現れる。なぜか?から始まるサスペンスタッチの映画。戦争の犠牲とその赦しが主題の映画(独仏共同制作)で予想以上に面白くミニシアターだけの上映はもったいない。
マネの絵「自殺」がストーリーの重要なキーになっている。(ピストル自殺した男の絵だがマネの作品としてはあまり有名ではない)ラストシーンの主人公の女性がルーブル美術館でこの絵を見ている場面で白黒だった画面が初めてカラーになる。そして「この絵を見ると生きる勇気が湧いてくる」とつぶやく。自殺の絵を見て生きたいとはなぜか? の説明は控える。
2017年12月4日月曜日
国際パステル画家招待展 @台北
2017 International Pastel Artists Invitational Exhibition
台北で開催されている国際パステル画家招待展に今年も出品させていただいた。現地へ見に行けないが、アメリカ・ヨーロッパ・アジアなどから 90作の出展があったそうだ。
Total 90 Works(From 16 Countries)
USA (32), Taiwan (32), Spain (7), France (3), Singapore (3), Japan (2), Others (10)
台北で開催されている国際パステル画家招待展に今年も出品させていただいた。現地へ見に行けないが、アメリカ・ヨーロッパ・アジアなどから 90作の出展があったそうだ。
Total 90 Works(From 16 Countries)
USA (32), Taiwan (32), Spain (7), France (3), Singapore (3), Japan (2), Others (10)
全作品がのっているポスター。(よく見たら3段目の右から2つめに自分のがある)
展示準備中の日本からの2作。左が拙作。(写真:Yuji Sakuma 氏)
2017年12月1日金曜日
空気遠近法のように遠景がきれいな日
A day of aerial perspective
おとといは秋なのに暖かくて湿度が高い珍しい日だった。空気がもやっていので富士山は見えない代わりに、空気遠近法の見本のように遠景がきれいにぼやけている。
おとといは秋なのに暖かくて湿度が高い珍しい日だった。空気がもやっていので富士山は見えない代わりに、空気遠近法の見本のように遠景がきれいにぼやけている。