Pictogram Design for Tokyo Olympic
2020年の東京オリンピックに向けて、外国人用の地図記号を新たに作るという記事が先日の新聞に載っていた。日本の地図記号は今のようにピクトグラムの国際標準化が進む以前に作られたので、外国人には通用しにくいのかもしれない。記事では、外国人の意見を参考にして作られたという各デザイン案の理由が説明されているが、そのなかで寺院の卍記号がナチスドイツを連想させるから三重の塔にした、とあった。
鎌倉をよく散歩するが、お寺が多いので、こんな案内標識があちこちにある。卍(まんじ)は日本人にはおなじみだが、これに不快感を示す外国人観光客がけっこういるらしい。先日読んだ中垣顕實著
「卍とハーケンクロイツ」は、これについて書いたとても面白い本なので紹介したい。
この本を読んでから卍に目がいくようになり、あらためてお寺に行って、どのくらい卍が使われているか見てみた。下は浅草の浅草寺で撮った写真のほんの一部だが、そのつもりで見るとたしかにそこらじゅうに卍がある。
卍は仏教だけのシンボルかと思っていたが、ちがうそうだ。仏教 • ヒンズー教 • ジャイナ教など多くの宗教で使われてきた。地域的には日本やインドなどアジア全域、さらにはヨーロッパやアメリカにも存在していて、時間的には3千年以上の歴史がある普遍的なマークだということだ。これら世界各地の卍のバリエーションすべては共通して、「幸福」や「幸運」を意味している。このマークを総称する一般名称は「スワスティカ」(Swastika)というそうだ。
ナチの「ハーケンクロイツ」(Hakenkreuz)は似ていても起源は全く別で、キリスト教の十字架のバリエーションのひとつだそうだ。(だから日本では鉤形の十字架=『鉤十字』と訳されている)ところがこのマークがホロコーストのシンボルとなってしまったため、戦後、欧米では意図的に「ハーケンクロイツ」と呼ばず、あえて「スワスティカ」と呼ぶことで、キリスト教がナチと無関係であるふりをしてきたという。
欧米の観光客が日本の寺で卍を見つけると、仏教はナチのシンパかと怒る人がいる原因はそこにあると著者は言う。ハーケンクロイツは十字架であり、むしろキリスト教のほうががシンパであったことを欧米人自身が知らない(知らされていない)ことからくる誤解だ。だから著者の主張は、お寺の卍記号の横に正しい情報を知らせるように、英文の解説をかかげるべきだとしている。