「Benedetta」
キリスト教の歴史に関する知識がないと、意味がわかりにくい映画だ。17 世紀イタリアで実在した若い修道女ベネデッタを主人公にして、当時の修道院や教会の聖職者たちの世界が生々しく描かれている。
修道院長は信者たちに高額の寄付を要求し、寄付できない貧しい人たちには、神の救いがなく地獄に落ちると脅迫する(最近どこかで聞いた話と似ている)。また聖職者たちは、教会内の地位上昇を目指して権謀術数を尽くしている。神に仕えるべき聖職者たちが、権力闘争に明け暮れている。(この時代、キリスト教会が堕落して、金儲け主義と権威主義に落ちいっていて、それが宗教改革運動の原因になったという歴史の事実にもとづいている。)
そのような世界に入った信仰の篤いベネデッタは、イエスに対面する聖体験をするが、そのために聖女としてあがめられ、若くして修道院長に登り詰める。しかしこれに嫉妬する前院長は、ベネデッタの聖体験は嘘だとローマ教皇に訴えて、ベネデッタを失脚させようとする・・・
ペストが猛威を振るっていた17 世紀が舞台だが、この小さな町だけは感染者がいないので、外から人が入ってくるのを防ぐため城門を閉めてロックダウンする(コロナの今と同じ)。ところが、ベネデッタの審問のためにローマから来た教皇の使いが感染していて、同じくローマから帰ってきた前修道院長も感染していた。人々に救いを授けるはずの聖職者が逆に不安と恐怖をもたらしたことで人々の怒りが爆発する・・・
ベネデッタは、聖女でありながらも、生身の人間としての欲望を持っている女として描かれていて、聖体験の奇蹟も前修道院長の言う通り、出世するための自作自演の嘘だったことを映画はそれとなく暗示している・・・